男性更年期障害と中高年の生き方。悩んでいるのは、あなただけではない。身体の不調とココロの病を見逃すな!
1956年神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒。コーネル大学(産業労働関係学)、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒(MBA取得)。 モービル石油、日本ペプシコ、AOL、シスコシステムズ、ネットエイジCOOを経て、03年ライフバランスマネジメント社を設立。その後、ARMグループに参画。 2009年10月から現職。早稲田大学理工学部講師、中国・西北工業大学客員教授。認定産業カウンセラー。 著書は「メンタルタフネス経営」(日本経済新聞出版社)など多数。
1955年京都生まれ。国立三重大学医学部医学部卒。国立循環器病センター(心臓内科)、大阪警察病院(循環器科)などを経て、米国メイヨー・クリニックに留学。 現在に至る。一般医、男性更年期外来も担当。精神科医ネットワーク代表世話人。奥さんは眼科医。 家事は「手伝おうか!」ではなく、分担し合うのが原則として食器洗いは石蔵先生の担当という。現在、料理、ピアノ、手芸など、多彩な趣味をもつ。 「50歳を過ぎたら、おばちゃん化する」ことを説く。
「男もつらいよ!男性更年期」
(ソシム社)
「男性更年期障害」「うつ病」など日々の診療を通して、悩める中高年男性の問題についてユーモアを交えて書かれてある。誰もが納得する、読み終えて安心する一書。
「女房に捨てられないための中年力」
(メディカルトリビューン)
熟年離婚や自殺を避けてもらうことを目的にしている。毎日新聞(関西版)に連載されたコラムに加筆しイラストを加え、日常よくある夫婦の問題をテンポの良い文章で書かれている。
そのほか「パンツの中の健康」(双葉社)、「できる男は2食主義」(メディカルトリビューン)など多数。
各界の有識者とライフバランスマネジメント研究所代表の渡部卓が語り合う対談企画をお届けします。多彩なゲストを招き、誰もが知りたかったこと、めったに聞けない話など、興味の尽きない内容が満載です。
記念すべき第一回目のゲストは、男性更年期外来も担当されている大阪大学准教授の石蔵文信先生です。現在、中高年の男性だけでなく、やがて自分にも関わる20代、30代の人、もちろん女性のみなさんも必読です。
- 渡部
-
更年期障害のご専門である石蔵先生をお招きして、ココロと身体の健康についてお話ししていきたいと思います。私自身は、まだ若い者には負けないと思っていますが、ふと考えるとれっきとした「中高年」の仲間です。
中高年の方には、老いや病に関する不安を抱える方も多いのではと思いますが、先生はどのようにお考えですか。 - 石蔵
- 程度の差はありますが、不安障害は中高年の男性にはよくあるパターンです。大きな舞台が近づくと不安になるのは誰でもあることですが、もっと激しくなると逃げだしたくなる。しかし、そうもいかないと酒に頼る。この時点で医師に相談すればかなり改善できるのですが。ほっておくと、そこからうつになる危険があります。眠れないから薬をもらう、腰が痛いから治療をするなど、対処はするのですが、根っこにあるストレスをコントロールできない。相談する人もいないのが問題で、地位が上になればなるほど、この傾向は強まっています。
- 渡部
- 会社では誰が何をしているのかわからない、会話も減っているし、いわゆる憂さ晴らし的なことが無くなってきている。だから孤独感が強まり、不安がつきまとう。米国ではトップになる時にカウンセラーをつけることを条件にする人が大半ですが、日本はそこまではありません。
- 石蔵
- こういう時代にうつ、不安障害が増えるのは仕方がないことかもしれません。うつではないけど、このままではうつになるという人が少なくなく、みなさん体調が悪いということで片づけてしまっている。女性は一歩早めに来院するのですが、男性は一歩遅く来るので重症化していることが多いですね。
- 渡部
- 先生は男性更年期外来の先駆けですが、どのような経緯から取り組まれたのですか。
- 石蔵
-
医学的には男性更年期障害について、これが原因とは特定していないのです。ED(勃起不全)の治療薬であるバイアグラが出て、その外来を始めようとしたのがきっかけです。ただ、"勃起不全外来"では患者さんが並びにくいだろうと思い、ちょうど、はらたいら(漫画家・故人)さんが、自分の調子の悪さを男性更年期と言っていましたので、これなら聞こえがいいし、わかりやすいので、軽い気持ちで私の勃起不全外来を男性更年期外来と称したのです。
- 渡部
- その名称にすると幅広くなりますね。EDの患者さんよりも中高年全般の、いわゆる体調の悪い方が訪ねてくるようになったということでしょうか。
- 石蔵
- そうですね。しばらくすると、うつ状態の患者さんが増えてきて、その大半がすでに精神科も受診している。そこで心療内科の勉強も始め、患者さんの話をじっくりと聴くようにしてから、病状が改善する患者さんが増えてきた。統計的にみても中高年で体調が悪いという人の6割から7割がうつ状態の方。当然、精神科や心療内科に行ってもらったほうがいいと思うのですが、そこには患者さんで溢れているのが現状です。
- 渡部
- 心療内科の先生と話をすると「今日は100人の患者さんを診た」と言うのですね。これでは十分な時間をかけて話を聞くことができない、と言っていました。
- 石蔵
- 女性は自分の苦しさをはっきりと言うが、男性は何が辛いのかを言わない。医者が聞いてもはっきりと言わなければ、診察も短時間で終わることになります。男は黙ってとか、男は泣かない、弱音を吐かない、などという精神論に縛られている。診察のときに苦しさを訴えなければ医者もそれほどのことはない、と判断するのも仕方がありません。
- 渡部
- 先生の場合はどのような対応をしてきたのですか。
- 石蔵
- 最初のころは、診察に余裕があったこともあり時間をかけて、いろいろと角度を変えて質問すると、患者さんから徐々に本音や弱音が出てくる。そうすれば適切な薬を出せるし、それで症状がよくなっていくのです。
- 渡部
- 男性更年期という病気はホルモンが関係しているという意見もありますが。
- 石蔵
-
その考え方は主流でなくなっています。一部の方にはいいのかもしれませんがホルモンはカンフル剤的なもので長続きしない。多くの患者さんはホルモンでは解決できませんから、心療内科的、精神科的な薬を飲んでもらい、話をじっくりと聴く。そこから何が問題なのかを解明していくことが最善だと思います。ですから私は、忙しくても時間をかけて話を聴くことを診療ポリシーにしています。
- 渡部
- 更年期外来に来る患者さんにはどのような症状があるのですか。
- 石蔵
- 頭痛、めまい、耳鳴り、口が渇く、肩こり・腰痛がひどい、動悸が激しい、胸が苦しい、息切れがする、咳こむ、胃が重い、下痢気味、便秘気味、手が震える、冷え性、火照るなど。しかし、検査では大きな問題はない。こういう症状があるので、精神科だけよりも我々のような内科系のほうが良い場合もあります。
- 渡部
- それが男性更年期の正体なのですね。男性更年期という病気はなく、肉体的な衰えとともにストレスに耐えられなくなる。会社でも家庭でも大きな責任を負わされる時期であればなおさら、定年も見えてくるし、先行きの不安やらも重なれば、バランスが崩れてしまうのも仕方ない。普通の人なら行き詰りますね。
- 石蔵
- とくに上昇志向の人ほど更年期障害に陥りやすいですね。そういう男性を専門に診ようという先生が少ない。それに比べ女性外来は多い。女性は男性に比べ生理があったりホルモンの関係があったりするので分けるのですが、男性は普通の人というカテゴリーでしかない。しかも自殺率をみると男性は女性の倍もある。しかし、うつ病は女性のほうが多いという矛盾した状況です。やはり男性が申告しないからではないでしょうか。
- 渡部
- 私どもは、予防に徹することが一番の道と思いストレスチェックの仕組みを作り提供しています。それでもうつになりかけたら、できるだけ早期に発見してカウンセリングを受けてもらえるように示唆します。しかし、先生がいうように男性、とくに中高年の方が我慢し続けて重症化してしまうと、カウンセリング段階ではなくなります。患者さんを見ていて性格的な特徴はありますか。
- 石蔵
- 責任感が強い、ひじょうに細かい、よく気がつくという人が多い。この性格自体はいいことなのですが。最近、気になるのが不安の症状が強いことです。男性には面子があるので、精神疾患になってしまったら終わりだという気持ちが強い。また、これまでうつ病の人に対する偏見を抱いていた人は、自分がなってしまうとかなり弱ってしまう。そういうメンタリティーだと何かあると気力が追いつかなくなるのです。
- 渡部
- 一昔まえまでなら男はプライドを保てた。一流大学を出て、一流の会社に勤めていれば、ある程度の地位までは登れたのですが、いまはそんな時代ではなくなってきている。こんな時代的背景も見過ごせませんね。つまりレッテル重視の人は弱い。
- 石蔵
- 日本だけではなく米国でも同じようなことがあります。男性の性は戦うことが大事な要素。それを求める女性がいるので子孫が繁栄していくのが自然の流れでした。最近は、草食系などと戦わない男性が増えてきていますが、それで男性としての性を保てるのか疑問はあります。肉体的に若い時期は男としてバリバリ仕事に熱中し、50歳を過ぎたら男をやめてもいいのではないでしょうか。私はピアノだけでなく最近は裁縫、編み物を積極的にやっていますよ。おばちゃん化したほうが行き方は楽ですよ。
- 渡部
- 大阪のおばちゃんにはなれそうもありませんが、普通のおばちゃんならいいですね。確かに背中が軽くなるような気がします。妻とも友達感覚になれるかもしれません。ただ、いきなりはなれない。早めの準備が必要ではないですか。
- 石蔵
- そこは難しいところです。あまり早くからおばちゃんに比重がかかると、仕事がおろそかになりかねない。だから、昔は人生50年といわれていましたから、50歳になったら生まれ変わればいい。そこからでいい。大事なことは気付くことですから。私は患者さんに、この病気になってよかったですね、といつも言います。いま気付くことができたのだから。定年過ぎてからでは大変です。ところがもっとも多い患者さんの年齢は62、63歳です。定年過ぎた人たちです。
- 渡部
- それはどのような理由なのですか。
- 石蔵
- 定年前までは勝ち組できたが、定年後に部下はいない、旅行三昧で過ごそうと考えていたリタイヤライフは奥さんがついてこなくなり、わずか2年で崩れる。自分では何もできない、誰もお世辞を言ってくれない。だんだん朝起きるのが辛くなる。昔は朝起きれば予定がいっぱいで多忙な一日の始まりだったのが、何もなくなる。どうやって一日を過ごすのかを考えるのが苦痛でならないということになる。ふさぎ込みがちになり、やがて病院にやってくるのです。
- 渡部
- おばちゃんなら、毎日やることがいっぱいですね。何事も食わず嫌いでは行けませんね。まずは編み物から挑戦してみましょうか。社内で業務後に会議室に集まって男同士で編み物教室を開いたら、きっとコミュニケーションも活発になっていいかもしれません。手だけ動かして口は空いていますから、自然に会話は弾みます。
- 石蔵
- 普段は偉そうにしている上司が、編み物をしていたら、おもろいですね。でも、それが普通にならなければいけない。そこには間違ったプライドは霧消します。自分の仕事に対して責任をもってやり遂げる誇りが大事で、内なるものであるべき。それを外に向けてプライドをかざしていては、やがては剥がれるだけです。
- 渡部
- そうですね。同感です。医師の立場からの先生の話は説得力があります。今日はありがとうございました。


